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倉庫の通路で段ボール箱を運ぶ作業者

写真: Pexels

基礎研究 想定読者: ビジネス 読了 9

物流の多重下請構造とは

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荷物を運んでほしい会社と、実際に運ぶ会社のあいだに、何社も事業者が入る。 そのたびに手数料が引かれ、最後に運ぶ事業者の取り分が減る——という説明はよく聞く。 では実際どうなっているのか。国が2025年6月にまとめた実態調査から、構造と数字を整理する。

このページの結論

多重下請構造とは、荷主から実際に運ぶ事業者までのあいだに複数の事業者が介在し、そのたびに手数料が差し引かれる取引の形である。国の調査では、委託時に約3割が請負金額の9割未満で出しており、手数料を委託先に明示していない事業者が6割を超えていた。是正は可視化から始まっているが、構造そのものを禁じる規制はまだない。

重要な事実

  • 国の検討会が2025年6月にとりまとめを公表し、実態調査の結果を示した
  • トラック運送事業者の7割超が、他の運送事業者を使って運ぶことがあると回答した
  • 委託する際、約3割が請負金額の90%未満で出していた
  • 利用運送事業者の6割超が、委託先に手数料を明示していなかった
  • 手数料の額は運賃の5〜10%程度とする事業者が約6割だった
  • 2025年4月施行の改正法で、元請に実運送体制管理簿の作成が義務付けられた

読むときの注意

  • 利用運送事業者への調査は回答率3.91%で、調査に協力的な層に偏ると報告書自身が注記している
  • 手数料の定義は調査によって異なり、取次事業者が受け取る手数料とは区別されている
  • 何次下請まで実際に発生しているかを網羅的に示した統計は存在しない

この研究の根拠について

根拠の強さ

強い

情報の新しさ

最新

見解の一致度

概ね一致

出典

6 件(うち一次資料 6)

出典の構成

  • 官公庁 5
  • 公的統計 1

これらの指標は根拠がどれだけ揃っているかを示すもので、内容の真偽を判定するものではありません。 判定ルールは編集方針に公開しています。

このページで使う用語

実運送事業者 じつうんそうじぎょうしゃ
実際にトラックを走らせて荷物を運ぶ事業者。委託を重ねた末に運送を担当する側にあたる。
利用運送事業者 りようえんそうじぎょうしゃ
自らはトラックを持たず、他の運送事業者の運送を利用して荷主と契約する事業者。国土交通大臣の登録を受ける。
実運送体制管理簿 じつうんそうたいせいかんりぼ
元請事業者が作成する、実際に運ぶ事業者の名称や請負の階層を記載した書類。改正法で作成が義務付けられた。
真荷主 しんにぬし
運送を最初に発注した荷主。委託が繰り返されると、実際に運ぶ事業者からは見えなくなる。

3分で分かる要約#

7割超

他の事業者を使って運ぶことがある1

トラック運送事業者への調査

約3割

請負金額の90%未満で委託1

委託する側の回答

6割超

委託先へ手数料を明示していない1

利用運送事業者への調査

5〜10%

手数料の水準1

約6割の事業者が該当

概要 — 荷主が運送を依頼した事業者が、その運送を別の事業者へ委託する。委託された事業者がさらに別へ委託する。これが繰り返されるのが多重下請構造である。介在する事業者はそれぞれ手数料を取るため、実際に運ぶ事業者の取り分が減る。

原因 — 自社の運転者が足りない、荷主から突発的な依頼が来る、といった理由で委託が発生する。さらに、委託先の候補が少ないため、受けた側もまた委託せざるを得ない。

現状 — 国の調査では、トラック運送事業者の7割超が他の事業者を使って運ぶことがあると回答し、委託時に約3割が請負金額の90%未満で出していた1

主な論点 — 何次下請まで許すか。全日本トラック協会は2次下請までに制限すべきと提言しているが、現行の規制は禁止ではなく可視化にとどまる12

結論 — 「中抜き」という言葉で語られる問題の実態は、手数料の水準そのものよりも、手数料が委託先に見えていないことにある。6割超の事業者が手数料を明示していなかった1

用語の定義#

この分野では「下請」「委託」「利用」がほぼ同じ意味で使われるが、制度上は区別がある。

トラックを持たずに荷主と契約する事業者は利用運送事業者と呼ばれ、国土交通大臣の登録を受ける。一方、登録も許可も不要で運送の取次だけを行う取次事業者も存在する。国の検討会が実態把握に苦労したのは主に後者である。法の規制がかかっていないため、これまで詳細な調査が行われていなかった1

なお、報告書は利用運送事業者が荷主から受け取る運賃と実運送事業者に支払う運賃の差を「手数料」と呼んでおり、取次事業者が受け取る手数料とは異なると注記している1。この記事も同じ用法に従う。

背景#

トラック運送業は、トンキロベースで国内の輸送量の約半分を担っている1。その担い手である運転者は、労働時間が全職業平均と比べて長く、年間収入は全産業平均を下回る状態にある56。有効求人倍率は2倍を超えた状態で推移してきた5

賃金を上げるには原資がいる。原資は運賃から来る。しかし、荷主が払った運賃が実際に運ぶ事業者に届くまでに何層も事業者が介在すれば、そのたびに目減りする。多重取引構造の是正が運転者の賃上げの問題として扱われているのは、この経路のためである1

  1. 平成14年法改正により参入規制が緩和される
  2. 令和5年6月「物流革新に向けた政策パッケージ」で多重取引構造の是正に言及
  3. 令和6年3月全日本トラック協会が2次下請までへの制限を提言
  4. 令和6年5月改正物流法が公布。実運送体制管理簿の作成義務などを規定
  5. 令和6年8月多重下請構造検討会が設置される
  6. 令和7年4月改正貨物自動車運送事業法が施行
  7. 令和7年6月検討会がとりまとめを公表

仕組みと現状#

委託が起きる理由#

国土交通省は令和5年2月から4月にかけて、全日本トラック協会の会員事業者51,657者を対象にアンケートを実施し、4,401者から回答を得た(回答率8.5%)1

結果は次のとおりである1

項目 結果
他のトラック運送事業者を使って運ぶことがある 7割超
そのうち、請負金額の90%未満で委託 約3割
委託の理由(複数回答の上位) 自社の運転者が不足、荷主からの突発的な運送依頼(約6割)
他社から運送依頼を受けることがある 約8割
受託する理由の最多 仲間の事業者を助けるため(5割超)
次に多い受託理由 荷主に直接営業することが困難なため(約2割)

荷主から実際に運ぶ事業者まで

  1. 1真荷主運送を最初に発注する。委託が重なると、誰が運んでいるかが見えなくなる
  2. 2元請事業者契約を受ける。自社で運びきれない分を他社へ委託する
  3. 3利用運送事業者・取次事業者荷主と実運送事業者を仲介する。差益が手数料になる
  4. 4実運送事業者実際にトラックを走らせる。ここに届いた運賃が運転者の賃金の原資になる

注目すべきは、委託の理由が「安く済ませるため」だけではない点である。自社の運転者が足りない突発的な依頼に応じるという理由が最も多い。運転者不足が委託を生み、委託が手数料を生み、手数料が賃金を圧迫し、賃金の低さがさらに運転者不足を招く——という循環になっている。

一方で「他者を利用したほうが費用を抑えることができるため」という回答も一定数見られた1

手数料はどう扱われているか#

国土交通省は令和6年9月30日から10月31日にかけて、第一種貨物利用運送事業(自動車)の登録を受けた全事業者27,976者にWEBアンケートを行い、1,094者から回答を得た(回答率3.91%)1

結果のうち、手数料に関する部分は次のとおりである1

  • 手数料の収受方法は、求貨側に支払う運賃から差し引く事業者が最も多く約5割。運賃と別建てで請求する事業者は3割にとどまる
  • 手数料の額は運賃の5〜10%程度とする事業者が約6割
  • 委託先へ手数料を明示していない事業者は6割超

報告書はこの結果について、運賃と手数料の別建てが浸透しておらず、本来運送側に支払われるはずだった運賃から手数料が差し引かれる傾向にある、と整理している。さらに手数料の割合についても、明確な理由にもとづくというより商慣行をもとに設定している場合が多いと考えられる、としている1

なぜ委託が繰り返されるのか#

報告書は、委託先の選択肢の少なさを構造的な要因として挙げている。回答した利用運送事業者の半分以上が、日ごろから付き合いのあるトラック運送事業者は「5者以下」と回答した1

限られた相手にしか出せなければ、その相手が運びきれない場合、受けた側がさらに別へ委託することになる。選択肢の少なさが階層を深くする、という説明である1

トラック運送事業者側の調査でも、第一種貨物利用運送事業者から受託する場合の運賃水準は約5割が元請の請負金額の90%未満で、約15%は「元請の請負金額は分からない」と回答している1

是正のために動いていること#

2025年4月1日に施行された改正貨物自動車運送事業法では、次の義務が定められた2

  • 運送契約締結時等の書面交付義務
  • 委託先の健全な事業運営の確保に資する取組(健全化措置)を行う努力義務と、運送利用管理規程の作成・運送利用管理者の選任義務
  • 元請事業者による実運送体制管理簿の作成・保存義務

実運送体制管理簿には実運送事業者の名称等を記載し、真荷主は元請事業者に対して閲覧を請求できる。段階的に構造を可視化することで是正を図る、という設計である12

運賃の側からも、2024年3月に告示された標準的な運賃の見直しで「多重下請構造の是正等」が3つの柱のひとつに位置づけられている3。この一連の対応は2024年問題への政策パッケージの一部でもある。

検討会が示した今後の方向性#

とりまとめは、政策の方向性を4つに整理している1

方向性 内容
川上を起点とする規律ある取引環境の形成 元請等が果たすべき役割と責任の明確化、階層自体を縮減・抑制する規制的措置の検討
川下における浄化作用の強化 悪質事業者の退出、違法な白ナンバー利用に対する発注者側の遵法意識の醸成
川上と川下をつなぐ取引ルートの拡大 多重取引構造を介さない安定的な取引環境、公正な受発注マッチングの普及促進
荷主側の意識改革の加速化 発注する側の理解を進める

なお、令和6年の改正物流法の審議では、衆参両議院で「実運送を行わない、いわゆる『専業水屋』についても実態を把握し、規制措置の導入も含め必要な対策を講じる」旨の附帯決議がなされている1。取次事業者への規制は、まだ検討の段階にある。

不確実性#

調査の代表性に限界がある — 利用運送事業者へのアンケートは回答率3.91%である。報告書自身が、回答数の少なさや、課題認識を伝えたうえで回答を得たことを踏まえると「第一種貨物利用運送事業の実態を均等に網羅しているものではなく、調査に対して比較的協力的な層の回答から成っていることに留意する必要がある」と明記している1。この記事で扱った手数料の数値も、同じ限界を持つ。

階層の深さが分からない — 何次下請まで発生しているかを網羅的に示した統計は存在しない。「多重」という言葉は使われているが、その多重度を測る公的な数値はない。

取次事業者の実態が見えない — 法の規制がかかっていないため、これまで詳細な調査が行われておらず、現状が十分に把握されていない、と報告書は述べている1。是正策の効果を測ろうにも、対象の規模が分からない。

是正の効果はこれから — 実運送体制管理簿の義務化は2025年4月に始まったばかりである2。委託の階層が実際に減ったかを示すデータは確認できなかった。国が2030年度の輸送力を見通す際にも、この構造の改善は施策効果の一部として織り込まれているが、実績としての検証はこれからである4

研究の穴

分かっていることと、分かっていないことを分けて示します。情報が足りない部分を隠しません。

このテーマで分かっていること 確度が高い内容
  • 委託が繰り返される理由と、手数料の扱いについて国の調査結果が公表されている
  • 元請に実運送体制管理簿の作成が義務付けられ、真荷主が閲覧を請求できるようになった
  • 全日本トラック協会は2次下請までに制限すべきと提言している
このテーマで分かっていないこと 未解決・未確認・研究不足
  • 実際に何次下請まで発生しているかを網羅的に示した統計は存在しない
  • 取次事業者の事業実態は、法の規制対象外のため十分に把握されていない
  • 実運送体制管理簿の義務化後に、委託の階層が実際に減ったかを示すデータは確認できなかった
次に調べるべきこと 追加調査の候補
  • 実運送体制管理簿の運用実態に関する調査結果が公表されているかを追う
  • 利用運送事業者への次回アンケートで、手数料の明示率が改善しているかを確認する
  • 中小受託取引適正化法の運用状況から、荷主との契約に関する是正事例を確認する

よくある疑問

多重下請構造とは何ですか
荷主から運送を受けた事業者が別の事業者へ委託し、それがさらに委託されることを繰り返す取引の形です。介在する事業者が手数料を得るため、実際に運ぶ事業者の取り分が減ります。
何次下請まであるのですか
網羅的な統計はありません。国の調査でも委託の階層そのものを全数把握した結果は示されていません。分かっていないことのひとつです。
手数料はどれくらいですか
利用運送事業者への調査では、運賃の5〜10%程度とする事業者が約6割でした。ただし6割超が委託先に手数料を明示していないため、受け取る側は本来の運賃水準を把握できていません。
規制で禁止されたのですか
禁止はされていません。2025年4月施行の改正法は、元請に実運送体制管理簿の作成を義務付けるなど、まず可視化する内容です。

出典

本文中の番号は、この一覧の番号に対応します。参照日時点の内容にもとづきます。

  1. トラック運送業における多重下請構造検討会 とりまとめ

    官公庁 国土交通省 トラック運送業における多重下請構造検討会 発行日不明 2026年8月8日参照

    実態調査の設計と結果、今後の政策の方向性。本文の数値の大半はこの資料による

  2. 改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について

    官公庁 国土交通省自動車局 発行日不明 2026年8月8日参照

    実運送体制管理簿・書面交付義務・運送利用管理者などの規制内容

  3. 新たなトラックの標準的運賃を告示しました

    官公庁 国土交通省物流・自動車局貨物流通事業課 2024年3月22日発行 2026年8月8日参照

    見直しの柱に「多重下請構造の是正等」が入っている

  4. 2030年度に想定される輸送力不足への対応方針(第9回 2030年度に向けた総合物流施策大綱に関する検討会 資料1-1)

    官公庁 国土交通省 2026年2月26日発行 2026年8月8日参照

    是正の先にある輸送力確保の位置づけ

  5. 統計からみるトラック運転者の仕事(自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト)

    官公庁 厚生労働省 発行日不明 2026年8月8日参照

    有効求人倍率・年間労働時間・年間収入額の数値

  6. 賃金構造基本統計調査

    公的統計 厚生労働省 発行日不明 2026年8月8日参照

    労働時間と収入の出典となる公的統計

この研究を引用する

タイトル
物流の多重下請構造とは
サイト名
研究図鑑
公開日
2026年8月8日
最終更新日
2026年8月8日
URL
https://research.lb-product.com/research/logistics/multi-tier-subcontracting

引用形式の例

研究図鑑 編集部「物流の多重下請構造とは」研究図鑑、2026年8月8日公開/2026年8月8日更新、https://research.lb-product.com/research/logistics/multi-tier-subcontracting

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