標準的な運賃とは
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トラックの運賃は、長いあいだ交渉で決まってきた。力関係が偏れば、下がる方向にしか動かない。 そこに国が「これくらいが妥当」という目安を示したのが標準的な運賃である。 2024年3月に8%引き上げられたが、実際に収受できているかは別の問題として残っている。
このページの結論
標準的な運賃は、国がトラック運送の運賃の目安を示す仕組みである。2024年3月に運賃水準が8%引き上げられ、荷役の対価等が新たに加算された。ただし国の実態調査では、運賃交渉を行った事業者は約74%、8割以上を収受できた事業者は約45%にとどまり、示された水準と実際の収受には差がある。
重要な事実
- 2024年3月22日に新たな標準的な運賃が告示され、同年6月1日から運送約款が施行された
- 運賃水準は8%引き上げられ、荷役の対価等が新たに加算された
- 見直しの柱は適正な転嫁、多重下請構造の是正等、多様な運賃・料金設定等の3つ
- 待機時間料や積込料・取卸料など、輸送以外の作業の対価が料金として体系化された
- 2025年7月の実態調査では、運賃交渉を行った事業者は約74%だった
- 8割以上を収受できた事業者は約45%にとどまった
読むときの注意
- 標準的な運賃は目安であり、この額で契約することを義務付けるものではない
- 実態調査の数値は事業者の自己申告にもとづく
- 収受できた運賃が運転者の賃金にどれだけ回ったかは、この調査では分からない
この研究の根拠について
根拠の強さ
強い
情報の新しさ
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見解の一致度
意見が分かれる
出典
6 件(うち一次資料 6)
目次 12 章
このページで使う用語
- 標準的な運賃 ひょうじゅんてきなうんちん
- 貨物自動車運送事業法にもとづき国土交通大臣が告示する運賃の目安。適正な原価と適正な利潤を賄えるとされる水準を示す。
- 標準運送約款 ひょうじゅんうんそうやっかん
- 国が定める運送契約の標準的な条件。多くの事業者がこれを使うため、実質的に取引条件の基準になる。
- 燃料サーチャージ ねんりょうサーチャージ
- 燃料価格の変動分を運賃とは別に収受する仕組み。実費として位置づけられている。
3分で分かる要約#
概要 — 標準的な運賃は、国がトラック運送の運賃の目安を示す仕組みである。適正な原価と利潤を賄える水準として告示される。
引き上げ — 2024年3月22日、運賃水準を8%引き上げ、荷役の対価等を新たに加算した新しい標準的な運賃が告示された。新たな標準運送約款は同年6月1日から施行された1。
中身 — 見直しの柱は「荷主等への適正な転嫁」「多重下請構造の是正等」「多様な運賃・料金設定等」の3つである1。
現状 — 2025年7月11日に公表された実態調査では、運賃交渉を行ったトラック事業者は約74%、そのうち荷主から一定の理解を得られた事業者は約75%だった。事業者全体で見ると約55%である。8割以上を収受できた事業者は約45%にとどまる3。
結論 — 目安を上げることと、実際に受け取れることは別である。制度は整ったが、交渉の場に立てていない事業者が2割強残っている。
用語の定義#
「運賃」と「料金」と「実費」は、この制度では区別されている2。
- 運賃 — 荷物を運ぶこと自体の対価。距離制、時間制、個建の3種類がある
- 料金 — 待機時間料、積込料・取卸料、附帯業務料、利用運送手数料など、輸送以外の作業やサービスの対価
- 実費 — 有料道路利用料、燃料サーチャージなど、実際にかかった費用
荷待ちや積み下ろしの時間が「運賃に含まれている」と扱われてきたことが、長時間労働と低い収入の一因とされてきた。それらを料金として運賃から切り出したことが、この制度の要点のひとつである。
背景#
トラック運送の運賃は、事業者と荷主の交渉で決まる。しかし事業者の大半は中小企業であり、荷主に対して交渉力が弱い。原価を割る水準でも受けざるを得ない、という状態が続いてきた。
その結果が、運転者の待遇に表れている。営業用大型貨物自動車運転者の年間収入額は507万円で、全産業平均の546万円を下回る56。賃金を上げるには原資がいるが、原資は運賃から来る。
さらに、荷主が払った運賃が実際に運ぶ事業者へ届くまでに複数の事業者が介在すれば、そのたびに目減りする。国の検討会は、この構造が実運送事業者への十分な運賃の支払いを妨げ、運転者への適正な給与の支払いを妨げる一因になっていると指摘している4。
運賃の目安を示すことと、それが実際に運ぶ事業者へ届くようにすることは、別々の対策として同時に進められている。
- 2020年標準的な運賃の制度が始まる
- 2023年10月緊急パッケージで、輸送以外のサービスの対価や下請手数料の水準を示して引き上げる方針が示される
- 2024年3月22日新たな標準的な運賃を告示。運賃水準8%引き上げ
- 2024年6月1日新たな標準運送約款が施行
- 2025年7月11日浸透・活用状況の実態調査結果が公表される
仕組みと現状#
何が変わったのか#
2024年の見直しでは、運賃表そのものの引き上げに加えて、契約条件のルールも変わった。標準運送約款の主な改正事項は次のとおりである2。
- 元請運送事業者は、実運送事業者の商号又は名称等を荷主に通知する
- 利用運送手数料の収受に関すること
- 荷主、運送事業者は、それぞれ運賃・料金等を記載した書面(運送申込書/引受書)を交付する
- 中止手数料の請求開始可能時期、金額を見直す
- 運賃等の店頭掲示事項について、インターネットによる公表を可能とする
運賃の水準を上げるだけでなく、誰がいくら受け取っているかを見えるようにする方向で設計されている点が特徴である。実運送事業者の名称を荷主に通知させる規定は、多重下請構造の是正と同じ狙いを持つ4。この見直しは2024年問題への対応策の柱のひとつでもある。
実際にどこまで収受できているか#
制度が整っても、契約は交渉で決まる。国土交通省が2025年7月11日に公表した実態調査の結果は次のとおりである3。
| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 運賃交渉を行ったトラック事業者 | 約74% |
| そのうち、荷主から一定の理解を得られた事業者 | 約75% |
| 事業者全体のうち、荷主から一定の理解を得られた事業者 | 約55% |
| 8割以上収受できた事業者 | 約45% |
読み方に注意がいる。「交渉した事業者の75%が理解を得た」は前向きな数字に見えるが、そもそも交渉していない事業者が約26%いる。全体で見ると理解を得られたのは約55%にとどまる。
そして「理解を得られた」ことと「収受できた」ことも別である。8割以上を収受できた事業者は約45%である3。
多様な運賃・料金設定#
見直しの柱のひとつである「多様な運賃・料金設定等」は、輸送の実態に合わせて運賃の建て方を選べるようにするものである。距離制のほかに時間制、個建の運賃が体系に含まれる2。
宅配のように1個あたりで数えるほうが実態に合う輸送と、長距離の幹線輸送のように距離で数えるほうが合う輸送を、同じ物差しで測る必要はない、という考え方である。
割増・割引の枠組みも整理されている。速達割増、特殊車両割増、休日割増、深夜・早朝割増、品目別割増、特大品割増、悪路割増、冬期割増、地区割増、そして長期契約割引や往復割引が並ぶ2。どのような条件でどの割増を適用するかは、各事業者が「運賃料金適用方」として定める。告示の内容を補完し、実際の請求に落とし込むための書類である2。
一律の表を示すだけでは、深夜の配送も休日の配送も同じ扱いになってしまう。条件の違いを価格に反映できる形にしておくことが、交渉の余地を作る前提になる。
なぜ交渉に立てない事業者が残るのか#
交渉していない事業者が約26%いる3。理由を直接尋ねた結果は公表資料からは確認できなかったが、構造の側から説明できる部分はある。
国の実態調査によれば、トラック運送事業者が他社から運送依頼を受ける理由として最も多かったのは「仲間の事業者を助けるため」で5割を超え、次いで「荷主に直接営業することが困難なため」が約2割だった4。そもそも荷主と直接の契約関係にない事業者が相当数いる、ということである。
この場合、交渉の相手は荷主ではなく元請や利用運送事業者になる。しかも利用運送事業者への調査では、委託先へ手数料を明示していない事業者が6割を超えていた4。自分が受け取っている運賃が元の請負金額のどれだけかを知らないまま契約している事業者にとって、標準的な運賃と比べる作業そのものが成立しない。
標準的な運賃は、契約の当事者どうしが金額を把握していることを前提にした道具である。 前提が満たされていない層には、目安を示すだけでは届かない。実運送体制管理簿の作成義務や書面の交付義務が同時に進められているのは、この前提を作るためと理解できる4。
実費として切り分けられているもの#
有料道路利用料と燃料サーチャージは、運賃でも料金でもなく「実費」として整理されている2。
燃料価格は事業者の努力で変えられない。それを運賃に含めてしまうと、燃料が上がるたびに事業者の利益が削られる。変動要因を運賃から切り離し、別建てで収受できる形にしておくという考え方である。同じ発想が、荷待ちや荷役の時間を料金として切り出した設計にも通っている。
不確実性#
賃金への反映が確認できない — 運賃が上がったかどうかは調査されているが、それが運転者の賃金にどれだけ回ったかを検証した公的資料は確認できなかった。制度の目的は賃上げの原資の確保であり、原資が確保されただけでは目的は達成されていない。
自己申告にもとづく — 実態調査の数値は事業者の回答による。「一定の理解を得られた」の基準も回答者の判断に委ねられている3。
下回る契約の規模が分からない — 標準的な運賃を下回る水準の契約がどれだけ残っているかを示す網羅的な数値は見当たらない。収受率の分布は分かっても、母数となる契約の実額は公表されていない。
荷主側の吸収方法が不明 — 運賃の上昇分を荷主が価格に転嫁したのか、自社の利益で吸収したのかは把握されていない。前者であれば物価に、後者であれば荷主の収益に効く。どちらであるかは、この制度の持続性に関わる。
研究の穴
分かっていることと、分かっていないことを分けて示します。情報が足りない部分を隠しません。
- 標準的な運賃の引き上げ幅と、料金・実費の体系は告示とQ&A集で確認できる
- 運賃交渉の実施率と収受状況について、国の調査結果が公表されている
- 収受できた運賃が運転者の賃金にどれだけ反映されたかを示す検証は確認できなかった
- 標準的な運賃を下回る契約がどの程度残っているかを示す網羅的な数値は見当たらない
- 荷主側が運賃上昇分をどう吸収したか(価格転嫁か利益圧縮か)は把握されていない
- 次回の実態調査で、収受率が改善しているかを確認する
- 賃金構造基本統計調査で、道路貨物運送業の年間収入額の推移を追う
- 中小受託取引適正化法の運用状況から、運賃に関する是正事例を確認する
よくある疑問
標準的な運賃は守らなければならないのですか
いくら引き上げられたのですか
実際に収受できているのですか
荷待ちや積み下ろしの時間はお金になるのですか
関連研究
出典
本文中の番号は、この一覧の番号に対応します。参照日時点の内容にもとづきます。
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8%引き上げ、荷役の対価の加算、見直しの3つの柱、施行日
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運賃・料金・実費の体系と、標準運送約款の主な改正事項
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運賃交渉と収受の状況に関する調査結果
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運賃が実運送事業者に届かない経路についての整理
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統計からみるトラック運転者の仕事(自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト)
運賃引き上げの目的となる賃金水準の現状
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年間収入額の出典となる公的統計
この研究を引用する
- タイトル
- 標準的な運賃とは
- サイト名
- 研究図鑑
- 公開日
- 2026年8月8日
- 最終更新日
- 2026年8月8日
- URL
- https://research.lb-product.com/research/logistics/standard-freight-rate
引用形式の例
研究図鑑 編集部「標準的な運賃とは」研究図鑑、2026年8月8日公開/2026年8月8日更新、https://research.lb-product.com/research/logistics/standard-freight-rate
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