なぜ運賃は上がりにくいのか
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運賃交渉を行った事業者は74%、そのうち74%が希望額か一部を収受できた。 数字だけ見れば交渉は通っているように見える。ところが契約単位で見ると、54%は据え置きだった。 なぜ上がらないのか。国の実態調査に、その答えがはっきり書かれている。
このページの結論
運賃が上がりにくい最大の理由は、交渉が失敗するからではなく、そもそも交渉に持ち込めないからである。国の調査で新たな運賃を提示しなかった事業者に理由を聞くと、最も多い回答は「契約が打ち切られる恐れを考慮」だった。交渉できた事業者の7割超は一部でも収受できており、断られるより持ち出せないことのほうが問題になっている。
重要な事実
- 令和6年度に運賃交渉を行った事業者は74%で、令和4年度の68%から増えている
- 交渉した事業者の74%が希望額または一部を収受できた
- 新たな運賃を提示しなかった理由の1位は「契約が打ち切られる恐れを考慮」だった
- 契約単位で見ると54%が増減なし、11%は減少している
- 1運行あたりの収受額は平均2,318円の増加で、増加額は2,000円以下が最多だった
- 標準的運賃を8%引き上げた結果、8割以上収受できた割合は53%から45%へ下がった
読むときの注意
- 調査は全日本トラック協会の会員事業者を対象としており、全事業者の縮図ではない
- 収受額の変化は回答のあった1,093契約についての集計である
- 価格転嫁率の調査はトラック運送業に限らない全業種を対象としている
この研究の根拠について
根拠の強さ
強い
情報の新しさ
最新
見解の一致度
概ね一致
出典
7 件(うち一次資料 7)
目次 15 章
このページで使う用語
- 標準的運賃 ひょうじゅんてきうんちん
- 適正な原価と適正な利潤を基準として国土交通大臣が定めて告示する運賃。交渉力の弱い事業者が原価に基づく交渉をできるようにするための仕組み。
- 原価計算 げんかけいさん
- 車両費・燃料費・人件費などを積み上げて、運送1件あたりに必要な費用を算出すること。運賃交渉の根拠になる。
- 燃料サーチャージ ねんりょうさーちゃーじ
- 燃料価格の変動分を運賃とは別に収受する仕組み。令和6年3月の標準的運賃に盛り込まれた。
- 価格転嫁率 かかくてんかりつ
- 増加したコストのうち、価格に反映できた割合。中小企業庁が全業種を対象に半期ごとに調査している。
- 附帯業務 ふたいぎょうむ
- 運送そのもの以外に運送事業者が行う作業。荷役、仕分け、検品などが含まれ、本来は運賃とは別に料金を収受する。
3分で分かる要約#
運賃が上がらないと言われる。しかし国の実態調査を読むと、交渉が失敗しているわけではないことが分かる。交渉した事業者の74%は、希望額か一部を収受できている1。
問題は別のところにある。そもそも交渉に持ち込めていない。 そしてその理由が、調査にはっきり書かれている。
交渉しない理由#
令和6年度の調査で、見直すべきと考えた契約について新たな運賃を提示しなかった事業者は26%だった。その260者に理由を聞いた結果が次のとおりである(複数回答)1。
1位は「真荷主または元請事業者から契約が打ち切られる恐れを考慮」である1。
これは価格の話ではなく、取引関係の非対称性の話である。値上げを申し出ること自体にリスクがあると認識されている限り、原価がいくら上がっても交渉は始まらない。
2位の「真荷主の経営状況を考慮」も、裏を返せば同じ構図を示している。相手の事情を先回りして自社の要求を下げる関係が定着している。
交渉できた場合はどうなるか#
交渉に持ち込めた事業者の結果を見ると、印象が変わる。
| 提示の仕方 | 希望額を収受 | 一部収受 | 収受できず | 交渉に応じてもらえず1 |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 35.6% | 38.5% | 10.5% | 2.7% |
| 標準的運賃(告示運賃)を提示 | 35.4% | 37.8% | 12.7% | 2.6% |
| 標準的運賃または自社原価に基づく運賃 | 36.8% | 40.3% | 7.4% | 2.3% |
| 具体的な値上げ額・値上げ率を提示 | 32.5% | 36.3% | 8.8% | 5.0% |
全体では74%が希望額または一部を収受できている1。交渉に応じてもらえなかった割合は2.7%にとどまる。
つまり運賃が上がらない主因は、交渉の敗北ではなく交渉の不在にある。
提示の仕方による差も読める。原価計算に基づく運賃を提示した場合、「収受できなかった」割合が7.4%と最も低い1。根拠を示せるかどうかが結果を左右している。
制度は何を用意したか#
平成30年の貨物自動車運送事業法改正により、交渉力の弱い事業者の適正な運賃収受を支援するため、国土交通大臣が標準的な運賃を定めることができるようになった73。令和2年4月に最初の告示が行われ、令和6年3月には燃料高騰分なども踏まえて運賃水準を平均8%引き上げるとともに、燃料サーチャージ制度を盛り込んだ新たな告示が行われている3。制度の中身は標準的な運賃とはで扱う。
浸透は進んでいる。
金額以上を知っている事業者は86%にのぼる(令和5年度も86%)1。原価計算を実施した事業者は84%で、そのうち21%は標準的運賃の原価計算方法を考慮し、63%は自社独自の方法で実施している1。
実施していない16%のうち、160社中59社は「やり方がわからない」と回答している1。認知と実行のあいだにはまだ差がある。
交渉の実施率も年々上がっている。
同時に、提示の中身も変わってきた。標準的運賃をそのまま提示する事業者は令和4年度の21%から令和6年度の41%へ増え、新たな運賃を提示しない事業者は31%から26%へ減っている2。
それでも全体は動かない#
ここからが本題である。交渉が増え、成功率も高い。にもかかわらず、契約単位で見ると景色が違う。
半分以上の契約は据え置き、11%は減少している1。増加したのは35%(379本)である。
増えた契約の中身も見ておく必要がある。
| 増加額 | 割合1 |
|---|---|
| 1〜2,000円 | 29%(110本) |
| 2,001〜4,000円 | 16%(62本) |
| 4,001〜6,000円 | 16%(61本) |
| 6,001〜8,000円 | 7%(25本) |
| 8,001〜10,000円 | 9%(34本) |
| 10,001〜20,000円 | 13%(48本) |
| 20,000円以上 | 10%(39本) |
最も多いのは2,000円以下の増加である。 全体の平均は1運行あたり2,318円の増加だった1。
この構図が、「運賃は上がっている」と「運賃は上がっていない」の両方が同時に言える理由である。交渉した契約は動くが、契約全体の過半は触られていない。
基準を上げると達成率は下がる#
もうひとつ、数字の読み方に注意がいる箇所がある。標準的運賃と実際に収受できた運賃の乖離率の推移である2。
同じ令和6年度でも、比較する基準によって53%と45%に分かれる2。令和6年3月に標準的運賃が平均8%引き上げられたためである。
旧基準で見れば46%→50%→53%と着実に改善している。新基準で見れば45%に下がる。どちらも事実であり、どちらか一方だけを引用すると話が変わる。 報道発表が「8割以上収受できた事業者は約45%」としているのは、新基準との比較である3。
運賃の外側にある要因#
運賃が上がりにくい理由は、交渉の場だけにあるわけではない。

委託が重なるほど取り分が減る。 国の検討会の調査では、運送を委託する際に約3割の事業者が請負金額の90%未満で出しており、利用運送事業者の6割超が委託先に手数料を明示していなかった6。荷主が支払った額が上がっても、実際に運ぶ事業者に届くとは限らない。詳細は物流の多重下請構造とはで扱う。
全業種で見ても転嫁は道半ばである。 中小企業庁の調査では、2026年3月時点の価格転嫁率は54.2%、コスト要素別では原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%だった4。「価格交渉が行われた」割合は90.7%に達しているが、コスト上昇分の全額を転嫁できているわけではない4。
同じ調査は、取引階層が深くなるにつれて価格転嫁の割合が低くなる傾向が引き続き見られるとしている4。多重下請構造と価格転嫁の問題は、業種を問わず同じ形で現れている。
賃金に届いているか#
運賃を上げる目的は、最終的には運転者の待遇改善にある。ここも調査されている。
運賃が上がった分がそのまま賃金に回るわけではない。 車両費や燃料費の上昇分も同じ原資から出るためである。
参考として、営業用大型貨物自動車運転者の年間収入額は507万円、全産業平均は546万円である5。年間労働時間は2,496時間で、全産業平均の2,076時間より420時間長い5。この差を埋めるには、1運行あたり2,318円の増加では届かない。構造の詳細はなぜトラック運転者は不足しているのかで扱う。
不確実性#
打ち切りの実績が分からない — 交渉しない理由の1位が「契約が打ち切られる恐れ」であることは調査で確認できるが1、実際に値上げを申し出た結果として契約を打ち切られた件数を示すデータは確認できなかった。恐れの根拠が実績なのか、業界内の経験則なのかを判別できない。
調査対象が会員事業者に偏る — この調査は公益社団法人全日本トラック協会の会員事業者を対象としており、回答者数は約1,100社である1。協会に加入していない事業者や、軽貨物の事業者は含まれていない。交渉できていない層ほど回答しにくい可能性がある。
据え置きの理由が分からない — 契約の54%が増減なしだった1が、そのうちどれだけが交渉した結果の据え置きで、どれだけが交渉しなかったものかを分けた集計は確認できなかった。
賃上げの金額が分からない — 賃上げを実施した企業が約60%、賃上げ率は5%以下が67%という結果は示されているが1、運転者1人あたりの金額に換算した集計は見当たらない。
価格転嫁率は全業種の値である — 本文で示した54.2%という転嫁率は全業種を対象とした調査の結果であり4、トラック運送業単独の値ではない。業種別のランキングは公表されているが、本記事では確認できなかったため引用していない。
研究の穴
分かっていることと、分かっていないことを分けて示します。情報が足りない部分を隠しません。
- 運賃交渉の実施率と結果が年度ごとに調査・公表されている
- 交渉に持ち込まない理由として契約打ち切りへの懸念が最多である
- 標準的運賃の認知は進み、原価計算を実施する事業者は84%に達している
- 契約が実際に打ち切られた件数を示すデータは確認できなかった
- 運賃が上がった契約と上がらなかった契約で、荷主側の属性がどう違うかは分からない
- 賃上げに回った分が運転者1人あたりいくらになるかを示す集計は見当たらない
- 令和7年度の実態調査で、契約単位の据え置き比率が下がるかを確認する
- 取適法の施行後に、運送委託に関する是正事例が出るかを追う
- 標準的運賃の次回改定で、乖離率がどう動くかを見る
よくある疑問
運賃は上がっているのですか
なぜ交渉しない事業者がいるのですか
交渉すれば通るのですか
標準的運賃はどれくらい収受できていますか
運賃が上がると運転者の賃金は上がりますか
関連研究
出典
本文中の番号は、この一覧の番号に対応します。参照日時点の内容にもとづきます。
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認知状況、原価計算の実施状況、交渉しない理由、交渉結果、収受額の変化、賃上げの状況
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運賃交渉の実施状況の推移と、標準的運賃との乖離率の推移
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調査の対象と期間、主要な結果
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価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します
全業種の価格転嫁率、コスト要素別の転嫁率、取引階層と転嫁率の関係
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運転者の年間収入額・年間労働時間の出典となる公的統計
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委託時の請負金額の水準と、手数料の明示状況
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標準的な運賃の根拠規定と、書面交付義務、荷主の違反原因行為への対処
この研究を引用する
- タイトル
- なぜ運賃は上がりにくいのか
- サイト名
- 研究図鑑
- 公開日
- 2026年8月8日
- 最終更新日
- 2026年8月8日
- URL
- https://research.lb-product.com/research/logistics/freight-rate-stagnation
引用形式の例
研究図鑑 編集部「なぜ運賃は上がりにくいのか」研究図鑑、2026年8月8日公開/2026年8月8日更新、https://research.lb-product.com/research/logistics/freight-rate-stagnation
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