モーダルシフトはどこまで進むか
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トラックで運んでいる荷物を、鉄道や船に移す。それがモーダルシフトである。 国は2030年代前半までに鉄道と内航海運の輸送量を倍増させる目標を掲げた。 ただし倍増しても、輸送分担率は1.7%から3.4%になるだけである。数字の実際を確かめる。
このページの結論
モーダルシフトとは、トラック輸送を鉄道や船舶へ転換することである。国は鉄道(コンテナ貨物)と内航海運(フェリー・RORO船等)の輸送量・分担率を2030年代前半までに倍増させる目標を掲げた。ただし倍増後の分担率は3.4%にとどまる。直近の実績は鉄道が微増、内航海運が増加傾向で、目標の達成には距離がある。
重要な事実
- 鉄道と内航海運の合計輸送量を2030年代前半までに倍増させる目標が置かれている
- 2020年度の6,800万トン(分担率1.7%)を1億3,600万トン(3.4%)にする計画である
- 倍増しても輸送分担率は3.4%で、大半はトラックのまま残る
- 鉄道は2023年度時点で1,811万トンと微増にとどまっている
- 目標の前提だった2030年度34%の輸送力不足は、2026年2月に見直された
- 2024年の対応方策でダブル連結トラックと航空貨物も倍増の視野に入った
- 2026年3月の新しい大綱では、鉄道164億トンキロを221億トンキロにする目標が置かれた
読むときの注意
- 輸送量の目標には将来的な物量全体の変化が考慮されていない
- 鉄道の直近の数値には大規模災害の影響が含まれる旨が注記されている
- 鉄道と内航海運で最新値の年度が異なり、同じ時点での比較ではない
この研究の根拠について
根拠の強さ
中程度
情報の新しさ
最新
見解の一致度
概ね一致
出典
6 件(うち一次資料 6)
目次 14 章
このページで使う用語
- 輸送分担率 ゆそうぶんたんりつ
- 全体の貨物輸送のうち、ある輸送機関が運んでいる割合。トンベースで算出する場合とトンキロベースで算出する場合がある。
- トンキロ とんきろ
- 貨物の重量(トン)に輸送距離(キロメートル)を掛けた単位。距離を加味した輸送量を表す。
- RORO船 ろーろーせん
- トラックやトレーラーが自走で乗り降りできる貨物船。クレーンによる積み替えが不要で、荷役時間が短い。
- 31フィートコンテナ さんじゅういちふぃーとこんてな
- 大型で10トントラックからの積替えが容易な鉄道コンテナ。国は導入を優先的に促進している。
- ダブル連結トラック だぶるれんけつとらっく
- 1台で通常の大型トラック2台分の輸送ができる連結車両。2024年の対応方策で、新たに倍増の対象として視野に入った。
3分で分かる要約#
モーダルシフトとは、トラック等の自動車で行われている貨物輸送を、環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換することである2。
国は2030年代前半までに鉄道と内航海運の輸送量・輸送分担率を倍増させる目標を掲げている1。ただし、**倍増しても分担率は3.4%**である。この数字の意味から確認する。
輸送機関の比較#
まず、それぞれの輸送機関がどういう性質を持つかを整理する。
| 輸送機関 | CO2排出原単位(1トンキロあたり)2 | 特徴 |
|---|---|---|
| トラック | 195g | 戸口から戸口まで運べる。積み替えが不要 |
| 航空 | 103g | 短時間・長距離。定期便の空きスペースを使える1 |
| 船舶 | 41g | 大量輸送に向く。RORO船はトラックごと積める |
| 鉄道 | 19g | 定時性が高い。積み替えが必要 |
鉄道はトラックの約10分の1である。国土交通省は、鉄道を利用する場合に約90%のCO2削減になるとしている2。
一方で、鉄道と船舶には積み替えの手間と時間がかかる。このため従来はおおむね500km以上の輸送が前提とされてきたが、300km〜400kmといった比較的短い距離での事例も増えてきている2。

目標の中身#
倍増目標は、2023年11月に官民物流標準化懇談会のモーダルシフト推進・標準化分科会がとりまとめたものである4。2024年2月に決定された「2030年度に向けた政府の中長期計画」にも盛り込まれた1。
数値は次のとおりである1。
| 対象 | 2020年度 | 2030年代前半 |
|---|---|---|
| 鉄道(コンテナ貨物)・内航海運(フェリー・RORO船等)の合計 | 6,800万トン(1.7%) | 1億3,600万トン(3.4%) |
| うち鉄道(コンテナ貨物) | 1,800万トン(0.4%) | 3,600万トン(0.8%) |
| うち内航海運(フェリー・RORO船等) | 5,000万トン(1.3%) | 1億トン(2.6%) |
トラック換算では約3万台分から約6万台分への増加にあたる1。
なお、この輸送量の目標には将来的な物量全体の変化が考慮されていない旨が注記されている1。分担率は各種統計をもとにトンベースで算出されている1。
実績はどうなっているか#
分科会は倍増目標の達成に向けて直近の輸送量を算出した。結果は次のとおりである1。
3年で11万トン、率にして0.6%の増加である。分科会自身も「微増傾向」と表現しており、大規模災害の影響に留意する必要がある旨を注記している1。
内航海運(フェリー・RORO船等)は2022年度時点で5,598万トンで、こちらは増加傾向とされる1。2020年度の5,000万トンから約12%の増加にあたる。
内航海運は動いているが、鉄道はほぼ横ばいというのが現在地である。しかも鉄道と内航海運では最新値の年度が異なり、同じ時点での比較にはなっていない1。
鉄道の内訳を見る#
JR貨物のコンテナ輸送量と積載率の推移は次のとおりである3。
| 年度 | 輸送量(万トン) | 積載率(%) |
|---|---|---|
| 平成29年度 | 2,243 | 76.4 |
| 平成30年度 | 2,027 | 75.5 |
| 令和元年度 | 2,076 | 73.4 |
| 令和2年度 | 1,883 | 69.8 |
| 令和3年度 | 1,848 | 70.9 |
| 令和4年度 | 1,833 | 70.1 |
| 令和5年度 | 1,811 | 70.0 |
輸送量も積載率も、平成29年度から一貫して下がっている。 倍増目標の起点である2020年度(令和2年度)は、すでに下降の途中にある水準である。
このため国は輸送力そのものの増強を進めている。10トントラックからの積替えが容易な31フィートコンテナの取扱い拡大を優先的に促進し、貨物駅のコンテナホームの拡幅や線路改良などの施設整備を支援している3。中長期的には40フィートコンテナの利用拡大も促進する方針である3。
主な論点 — 「モーダルシフト」の定義が広がった#
2024年11月、分科会は「新たなモーダルシフトに向けた対応方策」をとりまとめた1。ここで方針が変わっている。
対応方策の3本柱
- 1鉄道と内航海運の強化小口貨物の混載やパレット化への支援、大型コンテナ・シャーシの確保、けん引免許の取得支援、輸送余力の見える化
- 2多様な輸送モードの活用ダブル連結トラック、自動運転トラック、航空貨物輸送を新たに対象に加える
- 3地域政策との連携自治体・経済団体・荷主・物流事業者が協働する拠点整備を支援
注目すべきは2つ目である。分科会は次のように整理した1。
従来は環境負荷が相対的に高いと考えられてきたトラックや航空機などの輸送モードにおいても、その運用条件等によっては環境負荷の低減に資するケースが見られるようになってきている
そして、現時点では具体的な目標が定められていないダブル連結トラックと航空貨物輸送についても、2030年代前半までに輸送量・輸送分担率を倍増させることを視野に入れるとした1。
2026年3月、指標が置き直された#
この記事の前提は、公開直前に一段階新しくなった。 2026年3月31日付けの総合物流施策大綱(2026年度〜2030年度)は、「新モーダルシフト」に関する指標として、輸送モード別にトンキロベースの2030年度目標を設定した6。
| 輸送モード | 現状値6 | 2030年度目標6 | 増加率 |
|---|---|---|---|
| 鉄道 | 164億トンキロ(2024年度) | 221億トンキロ | +34.8% |
| 船舶 | 371億トンキロ(2023年度) | 410.4億トンキロ | +10.6% |
| 航空機 | 6.6億トンキロ(2024年度) | 8.3億トンキロ | +25.8% |
| ダブル連結トラック | 5.4億トンキロ(2025年) | 8.1億トンキロ(2030年) | +50.0% |
単位も期限も、倍増目標とは別物である。 倍増目標はトンベースで2030年代前半、こちらはトンキロベースで2030年度までを見ている。そして増加率はいずれも2倍に届かない。
同じ大綱では、自動運転トラックの導入台数1,000台(2030年度)も指標に加わった6。ダブル連結トラックと自動運転トラックが、鉄道や船舶と並ぶ指標として置かれたことになる。
なお、2030年代前半の倍増目標が撤回されたとは書かれていない。両方が併存している状態であり、どちらを進捗の基準とするかは資料からは判断できなかった。
専門家向けの補足#
目標の前提が変わっている。 「新たなモーダルシフトに向けた対応方策」は、2030年度に不足する輸送力34%の解消をより確かなものとすることを目的として掲げていた1。この34%という数値は2023年6月の政策パッケージに由来する。
ところが2026年2月、国は見通しを更新した。当初想定された34%の不足のうち約14%は官民の取組により概ね克服され、同時に輸送需要も約12%減少したと整理されている。再検証の結果、2030年度の輸送力不足は**平均で約7%から最大で約25%**とされた5。
倍増目標の前提となった数字が動いたことになる。詳細は2030年の物流はどうなるかで扱う。前提が変わったことで目標値自体が改定されたかどうかは、公表資料からは確認できなかった。
もうひとつ、政府の計画には別々の指標が並存している点にも注意がいる3。
| 計画 | 指標 |
|---|---|
| 総合物流施策大綱(2021年6月閣議決定) | 鉄道による貨物輸送トンキロ 2019年度184億 → 2025年度209億 |
| 地球温暖化対策計画(2021年10月閣議決定) | 鉄道貨物輸送量 2013年度193.4億トンキロ → 2030年度256億トンキロ |
| 物流革新緊急パッケージ(2023年10月閣議決定) | 鉄道・内航の輸送量・分担率を今後10年程度で倍増 |
トンキロで語る指標とトンで語る指標が混在している。 モーダルシフトの進捗を論じるときは、どの計画のどの単位の話かを確認しないと議論がかみ合わない。
不確実性#
鉄道の数値に災害の影響が含まれる — 2023年度の1,811万トンについて、分科会は大規模災害の影響等に留意する必要がある旨を注記している1。したがって、この数値だけで趨勢を判断することはできない。
年度がそろっていない — 鉄道は2023年度、内航海運は2022年度の数値である1。同じ時点での比較ではないため、合計値としての進捗も厳密には評価できない。
転換によるものかが分からない — 鉄道や内航海運の輸送量が増えたとしても、そのうちどれだけがトラックからの転換によるものかを示す内訳は確認できなかった。もともと鉄道で運んでいた荷物の増減と区別されていない。
2つの目標が併存している — 2030年代前半までのトンベースの倍増目標1と、2030年度までのトンキロベースの指標6が同時に存在する。どちらを進捗の基準とするか、また前者が後者に置き換わったのかは、資料からは判断できなかった。
必要な投資額が示されていない — 倍増に必要な貨物駅の整備、船舶の投入、コンテナ・シャーシの確保にどれだけの費用がかかるかを積み上げた資料は見当たらなかった。支援策は個別に示されているが、総額の見通しはない。
研究の穴
分かっていることと、分かっていないことを分けて示します。情報が足りない部分を隠しません。
- 鉄道・内航海運の倍増目標の数値と対象範囲が公表資料で確認できる
- 直近の輸送量が鉄道1,811万トン(2023年度)、内航海運5,598万トン(2022年度)と示されている
- 2024年の対応方策で、ダブル連結トラックと航空貨物も倍増の視野に入った
- 2026年3月の新しい大綱で、輸送モード別にトンキロベースの2030年度目標が設定された
- 新しい大綱の指標が置かれた後、2030年代前半の倍増目標がどう扱われるかは明示されていない
- 鉄道の輸送量のうち、トラックからの転換によるものがどれだけかを示す内訳は見当たらない
- 倍増に必要な設備投資の総額を示した資料は確認できなかった
- 分科会のフォローアップで、2025年度以降の輸送量が公表されるかを追う
- 新しい大綱の指標について、達成状況の公表が始まるかを確認する
- 31フィートコンテナの導入実績が公表されているかを探す
よくある疑問
モーダルシフトとは何ですか
どれくらい進める目標なのですか
倍増すればトラック不足は解消しますか
なぜ500km以上でないと使えないと言われるのですか
CO2はどれくらい減りますか
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出典
本文中の番号は、この一覧の番号に対応します。参照日時点の内容にもとづきます。
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倍増目標の数値表、直近の輸送量、対応方策の3本柱。本文の数値の多くはこの資料による
-
用語の定義と、輸送機関別のCO2排出原単位
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JR貨物のコンテナ輸送量と積載率の推移、31フィートコンテナの位置づけ、各計画の指標
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倍増目標が令和5年11月の分科会で取りまとめられた経緯
-
2030年度に想定される輸送力不足への対応方針(第9回 2030年度に向けた総合物流施策大綱に関する検討会 資料1-1)
34%という前提の見直しと、2030年度の輸送力不足の再試算
-
「新モーダルシフト」に関する指標(輸送モード別のトンキロと2030年度目標)
この研究を引用する
- タイトル
- モーダルシフトはどこまで進むか
- サイト名
- 研究図鑑
- 公開日
- 2026年8月8日
- 最終更新日
- 2026年8月8日
- URL
- https://research.lb-product.com/research/logistics/modal-shift
引用形式の例
研究図鑑 編集部「モーダルシフトはどこまで進むか」研究図鑑、2026年8月8日公開/2026年8月8日更新、https://research.lb-product.com/research/logistics/modal-shift
更新履歴
内容を変えたときだけ更新日を動かします。表記の修正など内容に影響しない変更は記載しません。
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公開
初回公開
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追記
総合物流施策大綱(2026年度〜2030年度・2026年3月31日)で輸送モード別のトンキロ目標が設定されたことを追記した
