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山あいの集落を通る舗装路と田畑

写真: Pexels

課題研究 想定読者: ビジネス 読了 8

地方の物流はどこまで維持できるか

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荷物が少ない地域ほど、1件を届けるコストは高くなる。人口が減れば荷物はさらに減る。 国の検討会は「運送事業者が撤退するおそれが顕在化しつつある地域」の存在に触れ、 制度的措置を視野に入れると書いた。どこまで来ているのかを数字で確かめる。

このページの結論

地方の物流は、需要の減少と輸送効率の低下が同時に進む構造にある。食料品アクセス困難人口は2020年で904万人、65歳以上の25.6%を占める。国の検討会は運送事業者の撤退のおそれに言及し、貨客混載の要件緩和や自家用有償運送の弾力化を検討するとした。ただし採算が合わなくなる水準を示す公的な基準はない。

重要な事実

  • 2020年の食料品アクセス困難人口は904万人で、65歳以上人口の25.6%にあたる
  • そのうち75歳以上が566万人で、困難人口の63%を占める
  • 民間試算では2030年に北海道・東北・四国・九州で約40%の輸送力不足とされる
  • 国の検討会は運送事業者が撤退するおそれが顕在化しつつある地域の存在に言及した
  • 買物困難者対策の取組が行われている市町村の割合はすでに89%である
  • 地方公共団体におけるドローン配送の社会実装は17件から174件への増加が目標に置かれた

読むときの注意

  • 食料品アクセス困難人口は2015年以前と定義が異なり時系列がつながらない
  • 地方別の輸送力不足の数値は民間試算であり国の公式な推計ではない
  • 検討会の取りまとめは方向性を示したものであり制度が確定したものではない

この研究の根拠について

根拠の強さ

強い

情報の新しさ

最新

見解の一致度

概ね一致

出典

5 件(うち一次資料 5)

出典の構成

  • 官公庁 3
  • 公的統計 2

これらの指標は根拠がどれだけ揃っているかを示すもので、内容の真偽を判定するものではありません。 判定ルールは編集方針に公開しています。

このページで使う用語

食料品アクセス困難人口 しょくりょうひんあくせすこんなんじんこう
店舗まで直線距離500m以上、かつ65歳以上で自動車を利用できない人。農林水産政策研究所が国勢調査をもとに推計している。
貨客混載 かきゃくこんさい
旅客用の車両で貨物もあわせて運ぶこと。過疎地域では要件が緩和されているが、それ以外では地域の関係者による協議が必要になる。
自家用有償運送 じかようゆうしょううんそう
事業用自動車では輸送力が足りない場合などに、自家用自動車による有償運送を例外的に認める仕組み。
農村RMO のうそんあーるえむおー
農村型地域運営組織。複数の集落が連携し、農地の保全や生活支援などを担う組織。
流動ロット りゅうどうろっと
1回の配送で動く貨物のまとまりの大きさ。これが小さいほど1件あたりの輸送効率は下がる。

3分で分かる要約#

904万人

食料品アクセス困難人口2

2020年・65歳以上の25.6%

566万人

うち75歳以上2

困難人口の63%を占める

約40%

2030年の輸送力不足の民間試算1

北海道・東北・四国・九州

89%

買物困難者対策を行う市町村4

2024年度・目標は90%

地方の物流には、都市部と逆向きの力が働く。荷物が少ないほど1件あたりのコストが上がり、人口が減ればさらに荷物が減る。

国土交通省の検討会は2025年11月の取りまとめで、次のように書いた1

定住・交流人口の減少によって運送事業の採算性の確保が恒常的に困難となり、サービス水準が低下しているなど、貨物自動車運送事業者が撤退するおそれが顕在化しつつある地域の存在も指摘されている

「撤退するおそれ」が政府文書に書かれる段階に来ている。 どこまで来ているのかを数字で確かめる。

需要の側 — 買物困難者は904万人#

農林水産政策研究所は、店舗まで直線距離で500m以上、かつ65歳以上で自動車を利用できない人を食料品アクセス困難人口として推計している2。徒歩で無理なく買い物に行ける距離として500mが設定され、買い物での不便を感じる人の多くが自動車を利用できない高齢者であることから定義されたものである2

2020年の食料品アクセス困難人口
全体(65歳以上)904万人
うち75歳以上566万人

2020年の推計では**全国で904万人、全65歳以上人口の25.6%**にあたる2。このうち75歳以上は566万人で、全75歳以上人口の31.0%、困難人口に占める割合は63%である2

65歳以上の4人に1人が該当する。 そして年齢が上がるほど比率が高い。

対象となる店舗には、生鮮食料品小売業、百貨店、総合スーパー、食料品スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアが含まれる23コンビニもドラッグストアも数えたうえで、なお500m以内に無い人が904万人いるということになる。

この問題は過疎地域に限らない。飲食料品店の減少と大型商業施設の郊外化により、都市部でも起きていると農林水産省は整理している2

供給の側 — 効率が下がり続ける#

一方、運ぶ側の条件も悪くなっている。

国の検討会は、小売業向けの配送で平均流動ロットが年々減少傾向にあり、過疎地域においては輸送効率の低下がより深刻な状況にあるとしている1。1回に運ぶ量が減れば、同じ距離を走っても運べる荷物は減る。

山あいの集落を通る細い道路と民家
集落まで届けるには、荷物の量にかかわらず同じ距離を走ることになる。需要が減っても走行距離は減らない。

将来の見通しも厳しい。検討会が紹介している民間試算では、2030年に北海道・東北・四国・九州の各地方で約40%の輸送力不足が生じるとされている1

需要が減ることと、供給が足りなくなることが同時に起きる。 荷物が減るから採算が合わず、担い手が減るから運べなくなる。片方だけを解いても解決しない構造になっている。

検討されている打ち手#

検討会が示した方向は、新しい技術を入れることよりも既存の制度を使いやすくすることに寄っている1

打ち手 現行 検討されている方向1
貨客混載 過疎地域以外では地域の関係者による協議が必要 協議の対象に「荷主を代表する者」を必ずしも含めなくてよいこととする
軽トラックの車両共同使用 法定点検や修理等に必要な期間に限って認められる 冷蔵冷凍品など特殊な運送需要への対応に必要な期間も認める
自家用有償運送 日数や台数を限って例外的に許可 時間単位の需要波動も考慮して日数・台数の扱いを弾力化する

貨客混載の要件については、「地域の物流網の維持の観点から荷主を代表する者」が地域によっては不明確であることや、ECの需要が増えるなかで地域外の荷主の貨物を運ぶ場合もあるといった運用上の課題が指摘されていた1制度はあるのに使いにくいという状態を解く方向である。

軽トラックについては、個人事業主が多数を占めるため冷蔵冷凍車のような特殊な車両を保有していないことが多いという事情がある1。低温輸送は地域の配送水準を維持するうえで重要だが、時間的な制約から代替手段の確保も難しい。この領域の安全対策は別に強化されている5

そして、冒頭に引いた「撤退するおそれ」の記述に続けて、検討会はこう書いている1

こうした地域における持続可能な物流サービスの提供を図るための方策について、地方公共団体の関与のあり方も含め、制度的措置を視野に入れながら、具体化に向けた検討を進める

「制度的措置」という言葉が使われている。 現行の枠組みの運用改善ではなく、新しい仕組みを作る可能性まで含めた表現である。

誰が支えるのか#

地方の物流を、運送事業者だけで支えることは難しい。検討会が繰り返し挙げているのが地方公共団体の関与である1

検討会が示した地域の支え方

  1. 1自治体の参画地域協議会等を通じた合意形成、公共施設の集配・受取拠点としての活用
  2. 2サービスの複合化配送に高齢者の見守りや買物支援を組み合わせ、担い手の収入と社会的価値を高める
  3. 3多様な主体の連携郵便局・EC事業者・物流事業者の共同配送、農村RMOと連携した農産物流通・買物支援
  4. 4災害への備え平時から関与しておくことが、緊急支援物資輸送の迅速化にもつながる

配送だけを単独の事業として成立させようとしないという発想である。見守りや買物支援と組み合わせることで、担い手の収入増加と地域への定着を促すという整理になっている1

一方で検討会は、これらの役割が全国各地の地方公共団体に必ずしも十分に認識されていないとも指摘している1。仕組みづくり自体が課題という段階である。

大綱に置かれた指標#

2026年3月31日付けの総合物流施策大綱は、地域に関わる指標を複数置いた4

指標 現状値 2030年度目標
買物困難者対策の取組が行われている市町村の割合 89%(2024年度) 90%
地方公共団体におけるドローン配送の社会実装件数 17件(2025年2月時点) 174件
生鮮食料品等の中継共同物流拠点数 8か所(2023年度) 30か所
中速・中型/中速・小型の自動配送ロボットの公道実証実験件数 2件(2025年12月時点) 10件(2027年頃まで)

最初の指標に注目したい。 買物困難者対策の取組が行われている市町村の割合は、すでに89%である。目標は90%で、1ポイントの上積みしか見込んでいない4

これは「ほとんどの市町村がすでに何かをやっている」ことを意味する。残っている課題は、取り組んでいるかどうかではなく、その中身が足りているかどうかである。 ただし取組の内容や効果を測る指標は、大綱の別表からは見つけられなかった。

ドローンについては、過疎地域・離島・山間部といった輸送密度が低い地域で、飲料・食料品・日用品・医薬品・新聞などの配達が社会実装され始めている1。共同配送の核となる拠点から離れたエリアへの配送について、トラック輸送を補完する手段としてドローンを一体で活用し、採算性を確保した事例も報告されている1。17件から174件へという目標は10倍の増加にあたる4

不確実性#

撤退の実績が分からない — 検討会は「撤退するおそれが顕在化しつつある地域の存在」に言及しているが1、実際にどの地域で何件の撤退が起きたのかを示す公表資料は確認できなかった。おそれの段階なのか、すでに起きているのかを判別できない。

採算の水準が示されていない — どの程度の配送密度を下回ると事業が成り立たなくなるのかを示す公的な基準は見当たらなかった。したがって、どの地域がどれだけ危ういのかを外から評価できない。

地方別の40%は民間試算である — 北海道・東北・四国・九州で約40%という数値は、検討会の資料が民間試算として紹介しているものであり1、国の公式な推計ではない。国自身の見通しは2030年の物流はどうなるかで扱っている。

アクセス困難人口は時系列がつながらない — 2015年以前とは対象店舗の範囲が異なるため、増加率をそのまま趨勢として読むことはできない2。次の推計は2025年国勢調査にもとづくものになる。

貨客混載の実績が分からない — 制度としては存在し、要件緩和も検討されているが1、実施件数や輸送量を示す統計は確認できなかった。緩和の効果を事後に測る手立てがない。

検討会の取りまとめは決定ではない — 本文で「検討する」と書いた項目は、いずれも方向性を示した段階である1。制度改正として確定したものではない。

研究の穴

分かっていることと、分かっていないことを分けて示します。情報が足りない部分を隠しません。

このテーマで分かっていること 確度が高い内容
  • 食料品アクセス困難人口の推計結果と定義が公表されている
  • 国の検討会が地方の物流に関する論点と検討の方向性を整理している
  • 買物困難者対策・ドローン配送などが大綱の指標に置かれている
このテーマで分かっていないこと 未解決・未確認・研究不足
  • 運送事業者が実際に撤退した地域や件数を示す公表資料は確認できなかった
  • 配送の採算が合わなくなる水準を示す公的な基準は見当たらない
  • 貨客混載の実施件数や輸送量を示す統計は確認できなかった
次に調べるべきこと 追加調査の候補
  • 検討会が示した「制度的措置」の具体化がどこまで進むかを追う
  • ドローン配送の社会実装件数が年度ごとに公表されるかを確認する
  • 2025年国勢調査にもとづく食料品アクセス困難人口の推計を待つ

よくある疑問

買物に困っている人はどれくらいいますか
2020年の食料品アクセス困難人口は全国で904万人と推計されています。65歳以上人口の25.6%にあたり、うち75歳以上が566万人を占めます。
食料品アクセス困難人口とは何ですか
店舗まで直線距離で500m以上、かつ65歳以上で自動車を利用できない人を指します。徒歩で無理なく買い物に行ける距離として500mが設定されています。
地方から配送事業者は撤退しているのですか
国の検討会は「貨物自動車運送事業者が撤退するおそれが顕在化しつつある地域の存在」に言及しています。ただし実際に撤退した地域や件数を示す公表資料は確認できませんでした。
貨客混載とは何ですか
バスやタクシーなど旅客用の車両で貨物もあわせて運ぶ仕組みです。過疎地域以外で実施するには地域の関係者による協議が必要で、その要件を緩める方向で検討が進められています。
ドローンは実用になっているのですか
過疎地域・離島・山間部で飲料・食料品・日用品・医薬品などの配送が社会実装され始めています。国は地方公共団体における社会実装件数を17件から174件へ増やすことを目標に置いています。

出典

本文中の番号は、この一覧の番号に対応します。参照日時点の内容にもとづきます。

  1. ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会 取りまとめ

    官公庁 国土交通省 ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会 2025年11月7日発行 2026年8月8日参照

    地方の輸送効率の低下、撤退のおそれ、貨客混載・自家用有償運送・ドローンに関する検討の方向性

  2. 2020年食料品アクセス困難人口の推計結果の公表及び説明会の開催について

    公的統計 農林水産省(農林水産政策研究所) 2024年2月27日発行 2026年8月8日参照

    食料品アクセス困難人口の推計結果と定義

  3. 食料品アクセスマップ

    公的統計 農林水産政策研究所 発行日不明 2026年8月8日参照

    推計の方法と、対象となる店舗の範囲

  4. 総合物流施策大綱(2026年度〜2030年度)

    官公庁 国土交通省 2026年3月31日発行 2026年8月8日参照

    買物困難者対策・ドローン配送・自動配送ロボット・中継共同物流拠点の指標

  5. 貨物軽自動車運送事業における安全対策を強化するための制度改正を行いました

    官公庁 国土交通省 2024年10月1日発行 2026年8月8日参照

    地方のラストマイルを担う軽貨物の安全対策

この研究を引用する

タイトル
地方の物流はどこまで維持できるか
サイト名
研究図鑑
公開日
2026年8月8日
最終更新日
2026年8月8日
URL
https://research.lb-product.com/research/logistics/rural-logistics

引用形式の例

研究図鑑 編集部「地方の物流はどこまで維持できるか」研究図鑑、2026年8月8日公開/2026年8月8日更新、https://research.lb-product.com/research/logistics/rural-logistics

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